コラム

[2011/03/07] 第32回 金星探査機「あかつき」の挑戦をみて

H-IIAロケット17号機による「あかつき」の打ち上げ

“まだ「あかつき」を手の内にしています” 2010年12月14日、宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)のホームページ上で金星探査機「あかつき」プロジェクトマネージャ 中村正人さんが残したメッセージです。

「あかつき」は世界初の惑星気象衛星と呼ばれ、地球以外の惑星である金星の特異な気候を観測する目的を持っていました。例を挙げると、時速400kmで流れる雲や、究極の温暖化が起こっているといわれる地表温度460℃の大気、これらの謎を解明すべく「あかつき」は打ち上げられたのです。その成果は、金星自体への理解を深めるに留まらず、地球温暖化のプロセスを解明する手がかりになるとも期待されていました。

しかし、2010年12月7日「あかつき」の金星観測軌道投入は失敗したと伝えられます。冒頭のメッセージは、この失敗を受け1週間後に新たなミッションへの抱負と共に伝えられたメッセージです。「あかつき」は6年後の2017年1月に金星観測軌道への再投入を目指し、失敗の状況、および、原因の究明を進めることが発表されました。

失敗してもなお“まだ手の内にある”と表現したことは、“「あかつき」の挑戦をあきらめていない”という意志の象徴のように感じました。多くの労力、資金、時間を要する宇宙事業は想像もできないような大きな期待とプレッシャーがあるものだと思います。失敗を受け止め、認めた上で次の挑戦を誓う姿勢は深く印象に残るものでした。

「あかつき」の挑戦をみて、あきらめない姿勢を知った上で、仕事に対する自分の姿勢を振り返ってみました。自分は満足に仕事をできているだろうか?失敗を受け止め、あきらめない意志を持っているだろうか?振り返った結果は、比較するのも恥ずかしいものでした。素直に失敗を受け止めて逃げないどころか、成功する、しないという結果が出る以前に最善を尽そうとしていないことに気付きました。自分はできる範囲でしか仕事をしていなかったと思います。できる範囲を広げるための努力を怠り、失敗をしたときに、その失敗を認め、何としても成功させようという意志が欠如していました。日々の仕事を遂行する上で“手の内にする”といえるには何が必要でしょうか。

正しいとはいい切れませんが、自分のできないことを認め、自分が仕事を完遂するために足りない能力を伸ばす努力をする。それでも仕事を完遂できないときは、周囲の人の力を借りてでも完遂しようとする意志を持つ。そうすることで、自分は仕事を“手の内にしている”といえるのだと考えました。

6年後、金星観測軌道投入に再挑戦する「あかつき」と同じように、私も自分の仕事を“手の内にある”といえるようになるための挑戦を始めます。 <角>


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