コラム

[2010/11/15] 第28回 「20歳のときに知っておきたかったこと」を読んで

“いま、手元に5ドルあります。2時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?”これが「20歳のときに知っておきたかったこと」の始まりです。スタンフォード大学教授である著者が起業家養成コースの授業で学生に出した課題でした。この一文だけを見たときの最初の印象は、正直に言って胡散臭いな、というものです。5ドルというと500円弱、これを2時間でどうしろというのか、競馬や宝くじのようなギャンブルくらいしか答えが無いじゃないか、と思っていました。


ここで、課題のルールを紹介します。

ルール1元手として5ドルの入った封筒を受け取る。
ルール2課題にあてられる時間は5日間。
ルール35日間で計画を練る時間はいくら使っても良いが、
封筒を開けたら2時間以内でお金を増やさなければならない。
ルール4どのような手段でお金を増やしたか、他の学生に3分間で発表する。

この課題の目的は、一か八かで低いチャンスに5ドルを賭けるのではなく、限られた資源をいかに創意工夫して活用するか考える訓練をするというものでした。しかし、詳細なルールを知り時間をかけて考えても、私は頭の中に500円玉(≒5ドル)を思い浮かべながら、実現できそうなアイディアを出すことはできませんでした。

実際に課題を出された学生達は5ドルを平均で80ドルにしました。トップの学生はなんと650ドルを稼ぎ出します。その学生は、お金を増やす手段として使えるのが5ドルでも2時間でもなく、発表に使う3分間だと閃き、スタンフォード大学の学生を採用したい企業に、その時間を買ってもらうことを提案しました。企業PRのビデオを製作し、発表の3分間に上映することで広告料を得たのです。他の利益を出した多くの学生も手元の5ドルをあってないようなものと捉え、元手が無い状態で利益を出すにはどうすれば良いかを考えたそうです。頭の中の500円玉を眺めていただけの私が、いかに思い込みに縛られていたかがわかります。


著者は、本の題名にもなっている20歳のときに知っておきたかったことの一つに常識を疑うこと、常識を変えても良いのだと知っておくことを書いています。私はこの本を読み、自分自身が500円と2時間では何もできないと思い込み、そこで思考を停止していることに気が付きました。できなくて当たり前であると自分の常識の中だけで結論付けていたのです。しかし、500円と2時間で利益を出せる実例を読み、できないと結論付けた自分の常識は誤っていたと思い知らされました。

筆者の伝えたかった常識を疑うこととは、この方法しかないと思ったり、無理だと思ったりすることが、実は自分の中の誤った常識の結論に過ぎないのではないかと疑ってみることではないでしょうか。自分が解決できそうに無い難問にぶつかったとき、この本から学んだ自分の常識を疑うことを思い出し、無理だと結論づける思い込みを越えて何か方法はないかと考えられるようになれれば、今までとは違った結果が見られるのではないかと思います。 <角>


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