コラム

[2010/09/06] 第26回 変化に適応できるものが生き残る

「最も強いものが生き残るのではない、最も変化に適応できるものが生き残る」、進化論を唱えたチャールズ・ロバート・ダーウィンの言葉である。

生命の歴史が作り上げてきた生体調節系の仕組みは、複雑かつ精巧で緻密である。この生体調節系の仕組みは、社会や組織、マネジメント・システムを考える上でとても参考になる。

弱体化する”免疫”機能
人体の解剖イメージ図

人類は、ごくわずか最近までバクテリアやウイルスの多い、いまでは不潔とさえ思えるような環境で生まれ育った。そして人は、このような環境の中でバクテリアやウイルスに対する免疫を獲得した。しかし、経済的にも豊かになって、都市化が進み衛生志向が広まったことで、日常生活は年々清潔なものとなった。その結果、バクテリアやウイルスに接する機会が激減したものの、感染症やアレルギーには弱い体質となったのである。

バクテリアやウイルスの多い自然環境の中で、生命が長い歴史を経て作り上げてきた免疫機能が、わずかこの数十年間で作り出した現代社会の新しい”環境”に対応できず、機能障害に陥っている。同様に人の脳も、進化の歴史の中で育まれてきた一つの器官であるが、グローバル化、IT化など様々な”環境”の急速な変化に対応できず、成長障害に陥っている。

自然界にはバランスが作り出す「秩序」がある。そこに加わるわずかな変化と、長い時間を掛けて築き上げた変化への対応が「進化」へとつながった。近年の生活環境の激変にそのバランスが崩れ、人の機能自体が対応できずに病弱な身体を作り上げてしまった。それらは、我々自身が作り出した”環境の変化”であるにもかかわらず。

変化に順応する力

環境の変化の中で存在していくためには、それらにどう対処するかを真剣に考えることが大切であり、それに取り組む「覚悟」が必要ではないだろうか。そのためには異なった分野、文化、慣習や考え方などを知り、自分自身の考えや行動を積極的に変える勇気と力が必要である。時間が解決する問題ではない、哲学の問題なのである。

人材の育成には教育が重要である。しかし、教育そのものは何ら特別なものではなく、「刺激」または「刺激を受けるための環境」にほかならない。その刺激に敏感に反応するか、あるいは素直に受け入れることができるのかは、本人次第である。すなわち、それを自覚させ覚悟させるための教育が、最も重要なのではないだろうか。

「感じる脳」、「考える脳」を作り上げる、言い方を変えるならば、変化に順応し成長させることができる強い意思と覚悟を、その人自身が持つことができれば、きっと生き残ることができるはずである。 <s.o>


参考:公江義隆 (2009) 『第43回 変化の中で、自らを制御できるものが生き残る』


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