コラム

[2010/07/05] 第24回 小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったもの

夜の空に輝く尾をひいて流れる大小2つの光、大きな光はやがてばらばらになり燃え尽きていきますが、小さな光は一筋の線を引き続け、消えることなく飛んでいきます。
大きな光は小惑星探査機「はやぶさ」、小さな光はその「はやぶさ」が60億kmの旅を経て小惑星イトカワから持ち帰った資料採取カプセルです。

2010年6月13日、地球に帰還した「はやぶさ」はニュースで大きく取り上げられ、たくさんの人が大気圏に突入した「はやぶさ」の映像を見たことと思います。

「はやぶさ」の大気圏突入
「はやぶさ」の大気圏突入

トラブルを乗り越えての帰還

2003年5月9日、「はやぶさ」は“月以外の天体から資料を採取して地球に帰還する”という世界初の試みを達成するために打ち上げられました。

姿勢制御装置の故障や、4基のエンジンのうち3基のエンジンが停止するといったトラブルに見舞われますが、姿勢制御装置の故障は推進剤として使用するガスの噴射で代替し、エンジン停止は停止していた2基のエンジンの動く部分を組み合わせ、1基分のエンジンとして使用するといった機転によって乗り越えられ、資料採取カプセルを無事、地球に送り届けます。

「はやぶさ」が持ち帰ったもの
「はやぶさ」のイトカワ着陸(想像図)
「はやぶさ」のイトカワ着陸(想像図)

回収された資料採取カプセルはX線簡易検査を受け、その中身に直径1mm以上の砂粒がないことを確認されています。しかし、塵や埃のような微細な物質を採取している可能性はあり、その調査が進んでいます。

「はやぶさ」は様々なトラブルを乗り越え、奇跡的な帰還を果たしたことから世間に大きく注目されました。そのため、事業仕分けにより17億円から3,000万円に削減された後継機の開発予算が見直され、宇宙開発関連予算についても再検討する流れができています。

このことから、「はやぶさ」は小惑星イトカワから資料採取カプセルを持ち帰ったと同時に、困難なトラブルを乗り越えたことで宇宙に対する人々の関心を集め、無駄と切り捨てられそうになった日本の宇宙開発における未来も持ち帰ってくれたのではないでしょうか。

ニュース映像で見た2つの光、大きな光である「はやぶさ」自身は最後に燃え尽きてしまいますが、小さな光の資料採取カプセルは燃え尽きることなく夜の空に光の線を引いていきました。
何ものにも代えられないものを持ち帰ってくれた「はやぶさ」、その最後の姿を私は忘れないと思います。
<角>


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