コラム

[2010/03/01] 第20回 ロックイン戦略(割引券は誰のためにある?)

「出社が楽しい経済学 第2シリーズ」をみて

経済学なんて自分には関係がない、それがNHK教育テレビで昨年の1月から3月にかけて放送されていた「出社が楽しい経済学」をみるまでの私の思いでした。しかし経済学の考え方は大学教授や金融マンだけが使うものではなく、生活に身近なところでも使われているということ、またその考え方を理解することは専門家でなくても役に立つということをこの番組をみて知り、その話題を昨年の4月に公開したコラムで紹介しました。

その続編となる「出社が楽しい経済学 第2シリーズ」が昨年の10月から12月にかけて放送され、たくさんの人達が「身近な経済学を知る」ということを受け入れ、よりたくさんの知識を望んでいたということがわかりました。今回の話題はこの第2シリーズから私の印象に残った経済学の用語「ロックイン戦略」について紹介をしたいと思います。

知らずに閉じ込められている?

「出社が楽しい経済学」はドラマ仕立てのなかで経済学のキーワードを紹介します。そこで主人公が会社の先輩にお昼ご飯をどこでとるかを聞かれ、

主人公 「今日も○○屋の牛丼にしようと思ってます。」
先輩 「この頃あそこの牛丼ばっかり食べてるな。そんなに美味しいのか?」
主人公 「いえ、正直飽きてますけど、もうすぐ特典割引のポイントがたまるから止められないんです。」

このような状況は珍しいものではないと思います。私も割引券をもらったことで、割引券を使うためにお店に入ることがあります。割引をしてもらうのですから得である、私は単純にそう考えていたのですが、経済学の視点でみてみると私は割引をする側の思惑にとらわれているといえます。ポイントや割引券によって他の店ではなく自分の店を選んでもらう、つまり顧客の囲い込みを行うことを「ロックイン(閉じ込め)戦略」といいます。

あるお店で食事をしたときに50円の割引券をもらったとします。そうすると50円の割引券を無駄にするのがもったいないと思えてまた同じお店に行ってしまう、このようにシンプルに書いてみると自分の店を選ばせるために割引券を発行するという思惑がわかるのではないでしょうか。 他の例を挙げると鉄道会社が自社の沿線上に遊園地を、駅前の一等地に百貨店を建設することで沿線上の住民を鉄道にロックインするというスケールの大きな手法も番組の中で紹介されていました。

「ロックイン戦略」を知って

割引券は誰のためにあるのか?「ロックイン戦略」を知り、それは買い手のためにあるのではなく売り手が顧客の囲い込みをするという目的のためにあるということがわかりました。しかし売り手のためにあるものだからといって買い手はその利用を止めるべきという結論にもならないと思います。商品を割引券によって安く買えるのであれば、それは買い手にとって得をしたといえるでしょう。ただし割引券のために不要なものを買ってしまったり「出社が楽しい経済学」の主人公のように食べ飽きた牛丼を特典割引のために食べ続けたりすることは、もはや得をしているとはいえないはずです。自分にとって何が得なのかを考えなければ、得をしていると思い込んでいるだけで損をしていることにもなりかねません。

「ロックイン戦略」が私の印象に残ったのは、普段から利用することの多い割引券を経済学の視点でみてみるとその見方が180度変わったからでした。割引券で安く買えるから得という考えから、なぜ売り手にとって損である割引券が発行されるのか、また割引券を使うのは本当に得か、というところまで考えを進めることができたと思います。「買い手の考え」から「売り手の考え」、「得だと思っていたこと」が「実は損をしているかもしれない」、反対の見方をしていますね。これからも、損か得かをはっきりと定義することは難しいかもしれませんが、売り手が何を考えているのかということは意識をしていければと思います。  <角>


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